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大阪地方裁判所 平成7年(わ)2226号 判決

裁判所書記官

中島公次郎

本店所在地

大阪市大正区平尾四丁目一二番二号

吉田建設工事株式会社

右代表者代表取締役

吉田眞一

本籍

徳島県小松島市中田町字中筋一〇番地の一

住居

大阪市港区南市岡二丁目一四番二〇号

会社役員

吉田眞一

昭和一〇年六月三日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官仁田裕也出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人吉田建設工事株式会社を罰金一六〇〇万円に、被告人吉田眞一を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人吉田眞一に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人吉田建設工事株式会社(以下「被告会社」という)は、昭和五六年八月一三日に設立され、大阪市港区南市岡二丁目五番八号(平成元年九月二七日に同市大正区平尾四丁目一二番二号に移転)に本店を置き、鉄骨、橋梁、鉄塔等の組立請負業等を目的とする資本金五〇〇万円(平成三年一一月一一日に金一〇〇〇万円に変更)の株式会社であり、被告人吉田眞一(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として、その業務全般を統括していた者であるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一  平成二年八月一日から同三年七月三一日までの事業年度における実際の所得金額が一億〇八八二万八八八一円であった(別紙1の1の修正貸借対照表参照)のにもかかわらず、雑収入の一部を除外するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年九月三〇日、大阪市港区磯路三丁目二〇番一一号所在の所轄港税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が五〇〇一万九〇九三円で、これに対する法人税額が一七六一万一九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右事業年度における正規の法人税額三九六六万五二〇〇円と右申告税額との差額二二〇五万三三〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ

第二  平成三年八月一日から同四年七月三一日までの事業年度における実際の所得金額が七三六四万三八一九円であった(別紙1の2の修正貸借対照表参照)のにもかかわらず、雑収入の一部を除外し、架空の外注費を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年九月三〇日、前記港税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一九九二万二六三一円で、これに対する法人税額が六三八万四四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右事業年度における正規の法人税額二六五二万九七〇〇円は右申告税額との差額二〇一四万五三〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ

第三  平成四年八月一日から同五年七月三一日までの事業年度における実際の所得金額が八一一三万〇二五四円であった(別紙1の3の修正貸借対照表参照)のにもかかわらず、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年九月三〇日、前記港税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の欠損金額が八四一万七八九四円で、これに対する法人税額が〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右事業年度における正規の法人税額二九四九万四二〇〇円と右申告税額との差額二九四九万四二〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(三二)

一  田中勇及び佐野澄雄の検察官に対する各供述調書(三〇、三一)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一五通(一〇乃至二四)

一  大蔵事務官作成の現金預金有価証券等現在高確認書(二八)

一  大蔵事務官作成の写真撮影報告書(二九)

一  大阪国税局収税官吏作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(九)

一  被告会社作成の証明書(三三)

一  大阪法務局登記官認証の法人登記簿謄本(三四)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成二年八月一日から同三年七月三一日までのもの(二)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成三年九月三〇日に申告した法人税の確定申告書写についてのもの(五)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成三年八月一日から同四年七月三一日までのもの(三)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成四年九月三〇日に申告した法人税の確定申告書写についてのもの(七)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成四年八月一日から同五年七月三一日までのもの(四)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成五年九月三〇日に申告した法人税の確定申告書写についてのもの(八)

(法令の適用)

被告人の判示各行為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という)四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

さらに、被告人の各所為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示各所為につき法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して罰金の額を免れた法人税の額以下とし、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一六〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、建物の鉄骨組立を主たる営業目的とする被告会社の設立当初からの代表者で、会社の業務全般を統括していた被告人において、被告会社には、平成二年八月から同五年七月までの三事業年度に合計二億六三六〇万円余の所得がありながら、うち約二億円の所得を秘匿して過少申告し、法人税合計七一六九万円余を脱税したという事案である。本件は、ほ脱額自身高額にのぼる上に、ほ脱率も三年度全体で約七四・九パーセントと相当に高く、しかも、そのほ脱の方法は、取引先から架空の請求書を提出させて架空の外注費を計上するなどの方法によるものであって、犯情は悪質といわなければならない。

しかしながらも、被告人は、工事現場で人身事故が発生して多額の補償金の支払が必要になった場合などに備え、さらには、被告人自身が不遇な生い立ちにあったことから、将来そうした子供たちのための福祉施設を建設しようと考えて本件に及んだものであり、こうした目的は適正な納税手続きを経た上で実現さるべきは当然としても、その動機自身は個人的な利益追求に基づくものではないこと、被告人は本件犯行を素直に認めるとともに、修正申告を行い、本件ほ脱にかかる法人税本税、重加算税、延滞税を完納していることなど、被告人に有利に斟酌すべき事情も認められるところである。

そこで、本件については、被告人に前科のないことなど、諸般の事情をも総合して勘案し、主文掲記のとおり量刑した上、被告人について、その刑の執行を猶予することとした次第である。

(求刑被告人について懲役一年、被告会社について罰金二〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井俊和)

別紙1の1

修正貸借対照表

〈省略〉

〈省略〉

別紙1の2

修正貸借対照表

〈省略〉

〈省略〉

別紙1の3

修正貸借対照表

〈省略〉

〈省略〉

別紙2

税額計算書

〈省略〉

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